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第157話 あれから5年

小児科医のつぶやき|第157話 あれから5年

 この4月で熊本地震発生から早くも5年が過ぎました。あの当時どんなことをやっていたのか今では記憶も少しずつ薄れてきていますが、頭上を飛び回るヘリコプターの音や何度も鳴り続いた携帯のアラーム音は今でもはっきりと耳に残っています。その後急速な復興のおかげでこのような状況になっているとは想像さえできませんでした。     


 地震によって失ったものは多かったのではと思いますが、逆に得たものも同じくらい多かったように思います。変な言いかたですが、貴重な経験だったと思います。誰もが経験できることではありませんので、そのことによって本当に日本人の優しさに触れることが出来ました。それから人生における価値観もすっかり変わりました。お金があっても何も買うことが出来ないというのをこれでもかというくらい思い知らされました。ペットボトルの水さえも買うことが出来なかったのです。熊本はおいしい地下水が豊富にありましたので、水のありがたみを忘れていました。地震によって改めて水の大切さを教えられました。トイレ、入浴、洗面、水がなくては何一つする事が出来ませんでしたので、当たり前ではないことを思い知らされました。   


 また当時は息子が高校3年生で高校野球をやっていましたので最後のシーズンでした。残念ながら遠征や大会も中止になってしまい、息子の心境はどうだったのだろうと今でも思います。二度と出来ない経験だったのですが、あのような経験はもういいかなって思います。その時以上に厳しい状況になっている3年生には、何とか無事にいろいろな大会を開催させてあげたいと願っています。  


 診療室の風景も、大きく変わりました。もともと、当院は南阿蘇や西原のお子さんもたくさん受診されていましたので、地震後は道も寸断されて受診することも出来ない状況だったようです。新聞やテレビの報道で知った名前や顔を見つけるとホッとしていました。それ以来受診されなくなってしまったお子さんも多いのですが、どこかで元気にしてくれていればいいなと思います。先日新阿蘇大橋が開通しましたので、もしかしたらまた懐かしい顔に出会えるかもしれないなと思ったりもしています。


 あっという間に5年が過ぎ、いろいろな場所の風景も変わりました。阿蘇に行けばまだ爪痕が痛々しく残っていますが、それでも地震前の営みが戻ってきているように見えます。しかし、被災された方々の心の傷はきっと癒えていないのだろうなと思うこともあります。残念ながら故郷南阿蘇を離れて、違う場所に住んで通ってくださるご家族も結構いらっしゃいます。そのような方々にとっては、どんなに時間が過ぎても自身の記憶を拭い去ることは出来ないのではないでしょうか。    


 個人的に南阿蘇は大好きな場所で、いろいろな知り合いの方がいらっしゃいます。素敵なお店もたくさんあって、地震前と変わらない風景を見る事が出来ます。でも、コロナの影響もあって以前のような賑わいを取り戻すまでにはなってないようです。熊本地震から5年が過ぎましたが、本当の復興にはまだまだ時間が必要なようです。何ができるかわかりませんが、これからも少しでも地震からの復興にお役に立てるようなことが出来ればいいなと考えています。   



【令和3年5月】
よしもと小児科 吉本寿美

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